ログ1・青赤

赤の台詞から

「マイクロトフ、キスしても良いかい」
「…誰にだ」
「可笑しなことを聞くな。お前にだよ」
「…今、ここでか?」
「あぁ」
「だめだ」
「冷たいな」
「今は執務中だ」
「融通の利かない奴め」
「そんな融通は利かずとも構わん」
「…そうだな、すまない。可笑しなことを言った」
「……待て、カミュー」
(マイクロトフ、己の副長と幾つか言葉を交わして後戻ってくる)
「すまない、待たせたな」
「いや、構わないが…マイクロトフ?」
「…」
「…っ、…してくれないんじゃなかったのか」
「休憩に入った。もう執務中ではないからな」
「…部下達に見られたのではないか?」
「……まぁ、大丈夫だろう」
「……無茶苦茶だな」
「お前に言われたくはない」
「あんな戯言を本気にする奴があるか」
「ああいう戯言からお前の本音を見抜けないようでは、お前の恋人など勤まらん」
「………!」
「何があったか聞かせてもらうぞ」
「……その自信はどこからくるのやら…」
「間違っていたか」
「……いいや、当たりだよ」





雨が降った朝・台詞は赤から。

「雨が降っているな」
「あぁ、そのようだな」
「それでも、やはり行くのかい?」
「この程度ならば、さほどではないだろう」
「だが、春には未だ早い。雨も冷たいぞ。付き合わされる青騎士達が不憫だ」
「…このくらいが耐えられずしてどうする。戦場で急な雨に見舞われることも……カミュー」
「ん?」
「…離してくれ」
「嫌だ」
「………(溜息)」
「…可哀想じゃないか」
「…俺の部下達がか」
「違うよ、私だよ。こんな朝から目が覚めてしまったのに、恋人に放っておかれるなんて。時間がくるまで、一人でどうしろというんだい?」
「…わかった。甚だ不本意だが、眠れるように手を貸す。…昨晩も遅かったからな、二度寝を見逃すことにしよう」
「…遅かったのは、誰の所為だ…?」
「……っ、…すまん…〜〜カミュー!笑っていないで横になれ!」
「あははは!こ、これじゃ、二度寝は…無理だ!(笑いを堪えつつ)…良いよ、行って来い。私は読みかけの本でも読んでいるから」
「……ならば、最初からそうしていてくれ…」
「眠っているならいざ知らず、暇を持て余す恋人をあっさり置いていこうとするお前が悪い…だろう?」
「……わかった、善処しよう。(口付けを落として)…では、行って来る」




エイプリルフール・かなん没漫画より続き

「お前も今日ぐらい嘘を吐いてみてはどうだ?」
「嘘?」
「年に一度のお祭のようなものだ。参加しない手はないじゃないか」
「……嘘など吐かん」
「つまらない奴だな。そんなに真面目に考えることはないんだぞ?」
「嘘を吐いたら、吐いた相手に口付けを贈らねばならんのだろう?俺には無理だ」
「………。(それもレディ達の体の良い嘘なんだがなぁ)」
「……カミュー」
「あぁ、何だ」
「………この間、俺の寝台に猫が居てな。困ったんだ」
「猫が?…まぁ、昼の間は鍵もかけていないから、そういうこともあるだろうさ」
「真ん中に陣取って眠っていて、とても気持ち良さそうにしていたから、どかすにどかせなくてな」
「ふ〜ん。それで、結局どうしたんだい?」
「目が覚めるまで寝かせておいたんだが、寝言を言ってな」
「寝言?猫がか」
「あぁ」
「どんな寝言だったんだ」
「……それが、人の言葉を話した。何と言ったと思う?」
「…さぁ、何だろうね」
「『好きだ』と言った。俺の名を、幸福そうに呟いて」
「………っ!そ、んなこと、言ったつもりは…」
「猫の話だぞ、カミュー。カミューが慌てることはないだろう?」
「………あぁ、そうだな。人語を話す猫の話だったか。そんな猫には会った事が無いから、連れて来てくれると嬉しいね。私も話がしてみたい」
「そうか。ならば、会わせてやる。…カミュー」
「…え、……っ、…」
「………すまん、人語を話す猫の話は『嘘』だ」
「嘘だということくらい、最初からわかっている。それより、今のは…っ」
「嘘を吐いた相手に、侘びとして口付けを贈る慣わしなのだろう。…カミュー相手になら、何度でも嘘を吐きたい気分だな」
「………」(レディの手前、それが嘘だとは言えない)
「…あぁ、猫ではなかったが、寝言で好きだと言われたのは、本当のことだからな?」




賭け・平騎士の青と赤に二人の友人。

「カミュー!」
「…マイクロトフ」
「まだ務めの途中か?」
「いや、終えた所だ」
「ならば、昼飯を一緒にどうだ?」
「構わないよ。エリウッドも一緒だけれど、良いかな」
「あぁ。俺も、アルフレドを誘うつもりだったからな」
「食堂で待ち合わせているから、先に行って席を取っておくよ」
「わかった。頼む」

(ふわりとそよいだ風にカミューの髪が軽やかに舞う)

「カミュー」
「ん?」
「…ここを、どうした」
(カミューの前髪を掻き揚げる)
「…あぁ、訓練で少し」
「打たれたのか」
「いや、模造刀の破片が飛んできて…。打ち合わせている間に相手の剣先が折れたらしくてな」
「大事無いのか?傷になっているぞ」
「掠り傷だよ」
「頭の怪我を過信してはだめだ。医務室には」
「こんな怪我で医務室になど行くものか。侍医の手を煩わせるようなものじゃないさ」
「傷が軽いからといって放っておいて、後遺症が出たらどうするつもりだ?」
「…わかった。では、食堂に行く前に寄って来るよ」
「…本当だろうな?」
「疑い深い奴だな」
「人の怪我には煩い癖に、自分の怪我には無頓着だろう」
「自分の事は自分が一番わかっているからさ」
「これに関しては、お前の判断は当てにならん」
「わかった、わかった。じゃあお前も一緒に来い。どちらの見立てが正しいのか確かめてみよう」
「そうだな、そうするか」
「私が勝ったら、今日の昼飯はお前の奢りだ」
「どうしてそういう話になるんだ?不謹慎だぞ」
「固いことを言うな。お前が勝ったら、ステーキ定食が奢りになるんだぞ?」
「む……」
「よし、決まりだ。ほら、行くぞ」
「あ、と、…カミュー!俺は乗るとは言っていないぞ!」

同時刻、建物の影より。

「……遅いと思ったら」
「こんな所でよくやるな」
「…仕方がないよ。自覚がないんだから」
「一度、鏡で見ればわかるぜ。…あ〜あ、カミューの髪なんて梳いちゃって。馬鹿っぷる顔負けだな」
「…あぁ、カミューの怪我に気付いたんだ」
「怪我?」
「…そう。…前髪に隠れてて、普通に見てるだけじゃ気付かないと思うけど」
「普通じゃないからな。いつも凝視してるじゃないか」
「…それは、言いすぎだろう」
「じゃあ、何て?」
「……注視?」
「…同じだよ」
「…じゃあ、熱視」
「あ、それ近いな」
「……医務室に行くつもりみたいだね。どうする?」
「先に食堂に行って飯を食うよ。腹減ってるしな」
「…これは、二人の奢りにしてもらわないとね」
「……えげつな…」
「乗らないの?」
「…乗った」




裏がある・平騎士な青赤。未だ無自覚な二人。
台詞は青から。

「一緒に行かないか」
「…観劇?」
「あぁ。都合が悪かったか?」
「いや、都合は悪くないよ。ただ、どうして私を誘うんだ?」
「誘ってはおかしかったか」
「観劇に誘ってくれることは、別におかしくもないけれどね。内容が、ちょっと」
「すまん…。俺は、内容までは知らんのだ。好まない内容のものなら、無理は言わんぞ」
「内容が嫌いというわけじゃないんだ。これは、男女の恋愛を綴ったお話だからね。こういう内容なら、普通は想いを寄せる女性を誘うものだ。男友達に声をかけたりはしない。…まぁ、お前は内容を知らなかった訳だから、仕方が無いけれど」
「…そうだったのか」
「わかったのなら、誰か気になるレディを誘うと良い」
「そんな相手はおらん。…宝の持ち腐れになってしまったな」
「…それ、どうしたんだ?かなり良い席の券だけれど」
「貰ったんだ」
「レディから貰ったのなら、それはお前と観に行きたいと誘っているということだぞ?」
「いや、貰ったのはアルフレドからだ。自分は急用で行けないから、と」
「……他に、何か言ってなかったか」
「『好きな奴を誘え』と言っていたか」
「…それで私を誘ったのか?」
「あぁ。観劇が好きな者は、他に思いつかなかったしな」
「………そうか。…マイクロトフ、その券、私に譲ってくれないかな?」
「あぁ、構わないが……」
「ありがとう。今度一杯奢るよ」
「いや、そんなことは気にしなくて良い。…カミューは、共に行きたい女性が居るのか…?」
「ん?あぁ、違うよ」
「…そうか」(何故かほっとしている)
「…のこのこ観に行ったりしたら、彼らの思う壺だからね」
「どういうことだ?」
「マイクロトフは気にしなくても良いことさ」

「調査結果報告。マイクロトフに現在好きな女性は無し。以上」
「…追加補足。気になる人は、居る模様」
「しかも本気なら…誰も勝ち目無いだろうなぁ。これ」
「…それを判断するのは依頼人。僕らは真実を告げるだけ」
「何て」
「マイクロトフが気にかける人物は専ら親友のカミューくらいだ、ってね」