海賊島の海岸にて。
「ハーヴェイ!」
「お〜、何だ?」
「…寒くないのかと思って」
「もう随分温かいぜ。泳げるんじゃないか?」
「泳ぐには早いだろ」
「そうか?シグも来てみろよ」
「…本当だ、結構温かいんだな」
「だろ」
「でも、泳ぐにはまだ冷たいんじゃないか?」
「そうでもないと思うんだけどな〜。この位の時期に、素潜りとか普通にしてたぜ」
「……そうなのか」
「そうだぜ。………」
「…ハーヴェイ?海の中がどうか…うわっ!」
「ほら、魚。潜れば貝とか海老とか…結構捕れるんだよな」
「いきなり放るなよ!…逃がすかと思った」
「……もう一匹いくぞ〜……よっ!」
「わっ!」
「…声かけただろ、今度は」
「声のかけ方がいきなりじゃ意味無いだろう!」
「まぁ、ちゃんと受け取れたんだから上出来だな」
「…この魚、どうするんだ?」
「焼いて喰えば良いだろ。酒の肴には充分だぜ」
「あぁ、……」
「…どしたよ、シグ」
「……あそこに…」
「おい、あんまそっち行くと深くなってるぞ!」
「あ、うわっ!」
「シグ!」
「……深いって言っただろ」
「…ごめん、助かった」
「あ〜、びしょびしょだな。こんなことなら泳いどきゃ良かった」
「…ごめん、ハーヴェイ」
「別に怒ってねぇよ。お前だって濡れ鼠だし」
「俺は、自業自得だから」
「それより、何だよ。何かあったのか?」
「あぁ、これが」
「…花びらだな」
「そう」
「………これがどうかしたかよ」
「え?どう、ということはないけど…もう何処かで花が咲いているんだな、と思って…」
「……変なところでだけ感情で動くよな、シグは」
「…何の花だろうな」
「……何だろうな。こんな、薄い桃色した花なんてあったか?」
「…サクラって花は、こんな花弁をしているらしいよ」
「…サクラ?」
「そう。赤月の何処だかには、その木があるらしい」
「木?」
「サクラは草花ではなくて、木に咲く花なんだ。木の全体が花で覆われて、桃色に染まって見えるって」
「……よく、わからないな。想像つかねぇ」
「絵なら、見せられるよ。おいでよ、ハーヴェイ。温かいって言ったって、こんな濡れたままじゃまずいし、中に入ろう」
「ん、そだな」
「…随分長い旅だろうな」
「何が」
「これが、サクラの花弁ならさ」
「そうだな。………シグは、さ。その花を、見に行きたいのか」
「…どうだろうな…。見てみたいかもしれない」
「…そっか」
「……でも、見るのは無理だ」
「どうしてだよ。赤月までは、そりゃ遠いけど、無理って訳じゃねぇだろ」
「俺は、この海から離れる気はないんだ。ほんの少しの間でもさ。キカ様や仲間の皆と…ハーヴェイの傍からな」
「…そうか。シグは、道に迷いそうだよな。一人旅はやっぱ無理か」
「…何だと?」
「怒るなよ。お前がここを選んでくれて嬉しいんだぜ。安心しろよ。お前の旅の共には、ちゃんと俺もキカ様も皆も一緒だろうからさ」
シグルドの髪に枝が絡んでしまいました。
「痛…」
「シグ?どうしたよ」
「…いや、髪が枝に絡まったらしい」
「取ってやるよ」
「あぁ、大丈夫だ」
(懐剣を取り出してあっさりと髪を切り落とす)
「………!!?」
「…ハーヴェイ?どうしたんだ」
「どうして切ったりするんだよ!?」
「え?だから、髪に枝が絡まったから…」
「取ってやるって言っただろうが!」
「切った方が手っ取り早いと思って。…ハーヴェイ?」
「……何だよ…!…折角、綺麗な髪……」
「ちょっと不揃いにはなったけど、すぐ伸びるさ」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「どういう問題なんだ?」
「気分の問題!」
「気分?…あ!すまん、お前の親切を無視したつもりはなかったんだ」
「…だから、そうじゃねぇって。あのな、俺はシグの髪を気に入ってるんだぜ。だから、簡単に切っちまうなって言ってるんだよ」
「…そう…なのか?」
「そうだよ」
「……わかった。じゃあ、気をつけるよ」
「おう、そうしてくれ」
天然な恋人・拍手企画より
「あんな奴の言う事なんか、聞かなくたっていいんだよ!」
「別に…大したことじゃなかったじゃないか」
「どこが大したことじゃないんだよ。あの野郎、調子に乗ってべたべた触りやがって…」
「占ってくれただけじゃないか」
「あれの何処が占いだ!」
「え…、普通に、手相を視てくれてたじゃないか」
「あのなぁ、シグ!あんなの口説き文句の常套手段なんだよ!」
「口説き文句って…俺は男だぞ?」
「あの野郎はどっちも見境ねぇんだよ。俺が来なかったら、空き部屋に連れ込まれるところだったじゃないか」
「…そうだったのか?」
「そうだよ」
「…じゃあ、あの占い結果は嘘なのか」
「そうに決まってんだろ!」
「『今の恋人とは近い内に別れが来る』って、嘘なんだな?」
「そんなこと言いやがったのかよあいつ〜!!」
「…そうか…。良かった。その結果は嘘だろうって言ったんだ」
「なんだ、インチキ占いだっていうのは気付いてたのか?」
「いや、占いなんてよくわからないしな。でもお前と別れるなんて、そんなのある訳無いじゃないか」
「…よくわかんねぇけど、どこからくる自信なんだ?それ」
「…もしかして、別れたかったりするのか?ハーヴェイは」
「んな訳ないだろ。俺が海賊やめるときじゃないか?お前と別れるなんてさ」
「死ぬまでじゃないか。死ぬまで海賊、やめないんだろう?」
「おう、死ぬまで海賊、死んでも海賊!」
「じゃあ俺達、いつまで一緒に居るんだろうな」
「さぁね。ずっとだろ。それでいいじゃん」
「(笑って)そうだな。それで良いか」
「とりあえずあのインチキ占い野郎は、もう一発ぶん殴ってくるぜ!」
踊る
場所は昼の甲板上かな?
H→ハーヴェイ
S→シグルド
HE→ヘルムート
H「なぁ、シグって踊れるんだよな」
S「ワルツなら。軍属と言ってもミドルポートは貴族の街だったからな」
H「なぁなぁ!ここで踊って見せてくんねぇ?」
S「う〜ん…。踊れないことはないが、相手が居ないんじゃ見ていても面白く無いと思うぞ」
H「相手か…。…お、良い所に。お〜い!ヘルムート!」
HE「…何か用か?」
H「お前ってさ、踊れるんだよな?」
HE「…踊り…?」
S「ワルツだよ」
HE「あぁ。一応は」
H「よしよし!じゃあさ、シグと踊って見せてくれねぇか?俺、そういうちゃんとしたやつって見たことねぇんだよな」
S「普通は男女で踊るものだぞ?」
H「ん〜、でも手っ取り早い奴、いねぇし。…なぁ、だめかよ、ヘルムート」
HE「…まぁ、別に構わないが…。…俺は男性パートしかわからない」
S「わかった。じゃあ、俺が女性役を引き受けるよ」
ワルツを踊る二人。
H「もうちょっと派手な技とかねぇの?」
HE「技?……では…」
シグルドの手を取りくるりとその身を回転させる。腰を引き寄せ身を傾ければ、苦笑交じりながらもシグルドもリードにのる。
弓なりに背を反らせて、ヘルムートの腕に身を任せる。
すいっと腰を引き戻され、二人、しなやかで優雅な動きのまま身を起こす。ヘルムートがシグルドの片手を取り、ハーヴェイに向かって軽く腰を折って一礼。
HE「…こんなものでどうだ」
H「お〜!なんかすげ〜!」
S「面白かったのか?」
H「面白かったぜ。ヘルムート、ありがとな」
HE「いや」
H「今のやつ、俺にも出来ねぇかな」
S「練習すれば出来るようになるとは思うが…今すぐには無理だと思うぞ」
H「さっきの技なら俺でも出来るって」
S「さっきのって…あれをやりたいのか?」
H「そうそう!ほらシグ、手、出して」
S「……落とさないでくれよ」
H「落とすかよ」
見よう見まねでシグルドの腰を抱えるハーヴェイ。シグルドの方がリードして、何とか形になるように持っていく。
腕を引かれ腰を引き寄せられて、背をしならせる。
反らされたシグルドの顎先を眺めながらハーヴェイが顔を寄せる。
S「わっ!?危な…ハーヴェイ!?」
H「大丈夫だって!ちゃんと抱えてるし」
S「…っ!…ハーヴェイ!」
H「ごちそうさま!…よっと!」
ぐいっと腰を引かれて身を起されるシグルド。
腰を抱かれたままハーヴェイの隣に立たされる。そこまでの動きだけは何故か完璧な動きで。
HE「…結構上手いな。練習すれば良い踊り手になるんじゃないのか」
H「そっか?でも、シグ以外が相手じゃ興味ねぇしな〜」
HE「そうか。…まぁ、ハーヴェイに必要な技能ではなさそうだからな。構わないんじゃないのか」
S「………そういう問題だったんだろうか、今の…」
08年始の挨拶
「ハッピーニューイヤー!」
「明けましておめでとうございます。…ハーヴェイ、それは何処の言葉なんだ?」
「ん?よく知らねぇ。昔、教えて貰った」
「意味は分かってるのか?」
「あぁ。…幸せな、新しい年、だったかな」
「良い言葉だな。幸せな新しい年か。そうであれば良いな」
「あったりまえだろ!?キカ様が居て、お前が居て、仲間の皆が居るんだ。幸せでない筈ねぇって」
「はは、そうだな。俺もそう思う」
「さーて!挨拶も済ませたんだ、新しい年の始まりを祝って飲もうぜ!」
「ほどほどにしておけよ、ハーヴェイ。年を越す前からずっとそんな調子なんだぞ」
「めでたい日なんだからいいんだよ!」
「そんな事を言っては皆、飲むんだからな…」
「ほら、シグ、行こうぜ!飲みっぱぐれちまうよ」
「あぁ、すぐ行く。…こんな荒くれ者ばかりですが、甘めのカクテルもありますから、宜しければご一緒にどうですか?」(にこ)