意識が浮上して瞳をぱちりと開いた。室内は未だ暗く、自身に課した早朝訓練に行くにしても少し早い気がした。 起き上がれば、常よりも冷たい空気が衣服越しに沁みた。冷たい空気の出所を無意識に探して視線を彷徨わせれば、窓辺でじっと立つ親友の姿が目に入った。 ほんの少し開かれたカーテンの隙間から、鈍色の空と綿のような雪が見えた。今年初めての雪だった。昨晩は冷え込むと思っていたが、短い秋が終わり、長い冬が始まったようだった。 じっと窓外を見つめる親友は、薄い肩に一枚上着を羽織っただけの随分と寒そうな出で立ちで、布団から出る時に自身の毛布を剥いで手にした。 「カミュー」 声をかけて、漸く彼は振り返った。殊更他人の気配に敏感な友人が、例え自室であったとしてもこうも無防備なのは珍しかった。 「…マイクロトフ…」 「そんな格好では風邪を引くぞ」 毛布を肩にかけてやれば、触れた身体は随分と冷たくなっていた。小さく眉を顰めて、身体を隙間なく毛布で包む。 マイクロトフの体温が残る毛布の温もりにか、ほっと溜息を一つついたカミューは、再び視線を外に向けていた。 「…もしかして、雪を見ているのか?」 「…初めて見るんだ。…綺麗だな」 綿のように、羽根のように真っ白な雪が後から後からはらはらと舞い落ちている。その儚い風情は確かに綺麗だけれど、生まれてからずっと見慣れてしまっているマイクロトフには、厳しい冬の到来を告げるものという認識の方が強かった。 「積もるかな?」 期待のこもった声音に、少しの躊躇の後、無理だろうと答えた。 「朝陽が昇ったら、すぐ溶けて消えてしまう雪だ」 「そうか…」 やっと彼の視線が動きマイクロトフを見た。それ程落ち込んでもいないらしい様子にほっとし、同時に、ずっと雪に彼の関心を奪われたままだったことに気付いた。 「いつから見ていたんだ?」 「お前が目を覚ますより少し前から」 それは、たぶん嘘だろう。あれだけ身体が冷えていたのなら、少しとは言わない時が経っている筈だった。 「…カミュー、ベッドに戻った方が良い。本当に風邪を引いてしまう」 カミューから雪への興味を削いでしまいたい気持ちもあって、少し力を込めて腕を引いた。 「ねぇ、マイクロトフ。雪が積もったら、遊び方を教えてくれよ」 笑った顔は寒さに頬を真っ赤にしていた。同期の中でも大人びたカミューの、こんな子供っぽい顔は初めてで、一瞬瞳を瞠った。驚きよりも、雪遊びに誘って貰えた喜びが勝って、すぐにマイクロトフも破顔した。 「あぁ、良いぞ。色々あるんだ」 「それは楽しみだ。次は、積もると良いな」 「あぁ、次は、きっと積もる」 雪が積もることを心待ちにしていたのはほんの子供の頃までで、こんな風に浮き立つのは久しぶりだった。 雪に対する妙な対抗心は、いつしか綺麗に溶けていた。昇る朝日の陽の温もりのように、心もほんのり温かかった。
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