君達の間合い




 マイクロトフの手を離れ、周囲を興味深げに見てうろうろしているのは、4歳になる末の息子だ。最初は手を繋ぐが、その範囲では満足出来なくなり手を離してしまうのだ。それでも、マイクロトフの手の届かない所まで離れる事は無い。それは、Jrに言い聞かせている為もあった。
 マイクロトフの隣で共に歩くのは、9歳になる上の息子だ。この歳だから、流石に手を繋ぐことは少ない。
 後ろからゆっくりとついて来るのがカミューだ。マイクロトフの周囲で円を描くように歩き回る末の息子を見て、可笑しそうに笑む。
「その範囲は、マイクロトフの剣の間合いの内だね」
「……何だと?」
「そのままの意味さ」
 カミューが笑みを湛えたまま近付いた。そうしてある一定の距離を取ってぴたりと止まる。マイクロトフの内に一瞬緊張が走り抜けた。その位置は、マイクロトフの剣が届かない、ぎりぎりの間合いだった。半歩の差にも満たない。カミューだからこそ、これ程正確に測ることが出来るのだろう。
 常であれば緊張など走る筈も無いが、今のカミューは、殺気とは言わずとも、臨戦態勢に近い気配を纏っていた。その状態で間合いを計られては仕方が無い。
 カミューが静かに間合いを詰めた。その気配が穏やかになった事に気付いた時には、すでにマイクロトフの剣の間合いの内に居た。マイクロトフから緊張が抜ける。ほっとした顔でもしたのか、カミューの笑みが深まった。
「間合いの内に入れて貰える、数少ない人間だと思って良いのかな?」
 今度はマイクロトフが笑みを深める番だった。
「ここは、お前の間合いの内でもあるだろう?」
「そうだね。お前は私の間合いに入って無事で居られる、数少ない人間の一人だ」
 言い方が素直では無いが、彼の笑みに嫌味は無い。
「マイ!ミュッ!」
 末の息子が二人の間合いの真ん中に立った。自分から関心が逸れたと思ったのだろう。
「探索はもう良いのかい」
「ん。いい」
 マイクロトフJrが二人の手を取った。
「僕も手を繋ぐ」
 カミューJrもマイクロトフの空いた手を取った。
「ここが息子達の間合いかな」
「そうだな」


 手の届く範囲が、家族の間合いだ。







最近の親は手を繋がない気がするよ。
ちっさい子がよくうろうろしてる。親が何処に居るのかさっぱりわからん間合いで。
特に男の子は大人しく手を繋がれてくれるとは思わないけど、それにしたってなぁ。
離れすぎじゃないのかなぁと思って、こんなネタです。