気分転換に、とシュウさんから受け取った書類を、カミューさんの所へ持っていく。 綺麗な笑顔と共に労ってくれたカミューさんの執務室には、僕と同じ理由で用事があったらしいマイクロトフさんも居た。 『すぐに目を通しますので、そちらにかけてお待ち下さい』 カミューさんの言葉に促されて、長椅子に腰掛けた。副長さんが出してくれた紅茶をありがたく頂きながら、カミューさんとマイクロトフさんを見ていた。 『マイクロトフ』 カミューさんに呼ばれたマイクロトフさんが、執務机に近づいた。カミューさんの座る椅子の隣に立って、持ち上げられた書類に視線を走らせる。 『――――――』 『――――』 何か、相談をしているみたいだけれど、何を言っているのかは聞き取れなかった。 カミューさんの耳元にマイクロトフさんの唇が寄せられている。まるで、内緒話をしているみたいだ。 カミューさんが、マイクロトフさんの言葉に答えるように顔を少し傾けた。その距離は二人の唇が触れてしまうのではないかと思うほどに近い。 マイクロトフさんの腕が、カミューさんの身体を護るみたいに背後の椅子に回されていて、それも二人の距離を縮めて見せているのだと思う。 いつもこんな感じなのかな、と副長さんの様子を伺ったら、見ない振りをしているように見えたけど、お仕事に集中しているだけだよね。 二人が話していた時間はそんなに長くなかった。座る僕の所にわざわざ書類を持って来てくれたカミューさんから、それを受け取ってお礼を言った。 思うところがあって、カミューさんに手招きした。僕の身長に合わせて屈んでくれたカミューさんの耳元に少し口を寄せて言った。 『内緒話をしているみたいでした』 そう言ったら、困ったような顔をされてしまった。可笑しなことを言っちゃったな、そう思って謝った。 執務室を出る寸前、扉の合間から、マイクロトフさんを手招くカミューさんの姿が見えた。 少し身を屈めたマイクロトフさんの耳元に唇を寄せて、何かを囁いた。マイクロトフさんは、少しだけ顔を赤くしていた。 カミューさんの唇は、マイクロトフさんの耳に触れているも同然の距離だった。 二人の『内緒話』の距離はそれだけ近いらしいと僕は納得した。あの距離は、きっと二人には当たり前の距離なんだろうな。
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