窓辺の秋




 同盟軍本拠地内に与えられた部屋に戻ると、夕陽にさえも鮮やかな深紅の軍衣を纏った青年が、窓から身を乗り出していた。床に着いた足はすでに爪先立ちの状態である。二階という高さとはいえ、このような格好で落ちたのなら怪我は免れないだろう。元より、生涯の伴侶として愛する恋人を、そんな危険な状態で放っておける筈も無かった。
 慌てて駆け寄り、窓から大きく乗り出すその身を腕に抱いた。腰にしっかり己の腕を巻きつけ、安堵の息を吐く。これで一先ず落ちることはないだろう。
 彼の安全を確保した上で、マイクロトフは漸く声をかけた。
「…カミュー、一体、何を…」
 呆れを滲ませた声で問えば、最後まで紡ぐ前にしっ!と鋭く遮られる。
「…マイクロトフ、静かに…そのまま動くなよ」
 カミューがじっと眺める先には、延ばされた彼の優美な指先。そして、その周囲を思わせぶりに飛び回っているのは、一匹の紅い蜻蛉だった。
 カミューの真剣な様子につられたマイクロトフも一緒にじっと様子を伺えば、暫し羽を震わせていた蜻蛉が彼の白い指先へと止まった。羽をゆっくりと上下させその身を休めるその姿に、カミューが満足そうな笑みを見せた。
 そうして数十秒の時間だろうか。羽を休める小さな姿は、止まった時と同じく唐突に飛び上がった。高く夕陽に向かって飛び去る姿は、忽ちその姿を夕陽の紅に溶け込ませ、見えなくなった。
 伸べていた腕を引き、漸くしっかりと床に降りたカミューに、未だ己の腕の中に囲いながら、マイクロトフは再び呆れた声をかける。
「カミュー、あまり危ないことをしてくれるな。こんな…子供ではないのだぞ」
 今度は遮られることの無かったマイクロトフの言葉を、カミューも自覚はあるのか苦笑しながら肩を竦めた。
「すまない。止まりそうで止まってくれないものだから、ちょっとむきになってしまったかな」
 窓の桟にかけられたカミューの手を取り、その指先を見る。先程、あの紅い蜻蛉が止まった指だった。
「お前の指先で…気持ち良さそうに休んでいたな」
「そうだね。我ながら、子供っぽいことだとは思うけれど、なかなか良い気分だったよ」
「そうか」
 そのまま指先に唇を触れさせれば、カミューは少しくすぐったそうに笑った。カミューの傍でその身を休める権利を今回は譲っても良いと、マイクロトフは瞳を細めた。







赤トンボ。こっそり腰抱っこ萌え(笑)