その他版権小ネタ3

*銀魂・近土←山


土産


 ある意味出来心だったのだけれど。

 あの鬼の副長がこんなものを欲しい筈はないとわかっていて、それでも万一受け取って貰えたなら、とその可能性を捨て切れず、手に取ってしまったそれ。
 調査の報告と共にさり気無く渡そうと懐にしまった。

「土方さん山崎です」
 障子の向こうに声をかければ、珍しく機嫌の良い声音で入室を促された。機嫌が良いのなら好都合と内心でほっとしながら中へと入る。
 卓を挟んで真向かいに座れば土方が卓の上の物を指で弄んでいた。
「…あの、副長、それは?」
 懐にあるそれと、良く似たものを指差す。
「ん?…あぁ、…近藤さんがなァ、土産とか言って置いて行きやがった。こんなもん、貰ってもなァ」
 そう言いながら酷く嬉しそうな土方の姿に、そうですか、としか答えられなかった。
 この人は、こんなものやっぱり欲しくは無いんだ。けれど、それが何であっても、局長からのものなら幸せなのだろう。
 返せば、局長以外からのものは、何を渡しても満たせないと言う事だ。

 山崎は何とか笑顔をつくった。


 ――渡す事のできない、想いの欠片を懐に隠したまま…



かなんに書けと強要されて書いた山土。
暗めの山土で、と言われたのでこんな感じに。

ありがとう。山→土ブーム中だったんです。
報われない系の薄暗いヤツ(笑)
これこそ山土の醍醐味!(か




*銀土で新年のご挨拶
*拍手用だった


「あれ、何。もう年明けちゃったの?え、紅白ってどっちが勝った?」

「おい。てめぇは何でここに居る」

「一応、挨拶しておくか。え〜、明けましておめでとう。今年も銀さんを宜しく。…よし。すんませ〜ん、そこの栗きんとん、取って貰えます〜?」

「おいっ!聞いてんのか!?」

「あん?何、めでたい席だってぇのに。何かうるさい人が居るんですけど〜。空気よめよな〜」

「空気読んでねぇのはてめぇだろ!何でてめぇが真選組の新年会に紛れ込んでいやがるんだ!」

「でもそんなの関係ねぇ〜!」
←書いた頃はそれなりに流行ってた(笑

「関係大有りだ!上手いこと言った顔しやがって!」

「けちけちするなよ〜。新年なんだし無礼講だろ?副長さんよ」

「副長言うな!」

「じゃ、土方くん」

「馴れ馴れしい呼び方するんじゃねぇ!質問に答えろ、万屋」

「トシは注文が多いな〜。あんたんとこの隊長さんが文句言わないんだから良いだろ。銀さん、大人しくしてるんだし」

「ぐっ!」

「あ、こっちに苺パフェ一つね〜」

「近藤さんの好意に甘えてつけあがんじゃねぇ!てか、新年早々パフェかよ。血糖値高っ!」

「おせちがマヨネーズで見えないようなマヨラーには言われたくありませ〜ん」

「…ここじゃ折角の新年会が穢れるからしねぇが…帰り道では背中に気をつけろよ、万屋〜!!」


*銀魂・近土


 耳に煩いほどに聞こえる明るい音楽と子供の声。こういう雰囲気が苦手である土方にとっては、随分と居心地が悪いのだが、傍らに立つ近藤はといえば、何処か楽しげであった。


 ここは江戸の町で一番人気の遊園地である。何故そんなところに真選組の2トップである二人が居るのかといえば、要人警護の為だった。要人といっても、現在何かしらの危険に晒されている訳ではない。警護は名目であり、どちらかといえば接待ともいうべきものだった。その証拠に、守るべき要人である人物は家族を連れてこんな人ごみの多い場所に遊びに来ているのであるし、そんな危険の多い場所にいながら、自分も近藤もさほどの緊張も伴わずにこの場にいるのだった。
「遊園地なんて初めてだが、楽しそうな場所だなぁ。今度真選組のみんなで来てみるか。なぁ、トシ」
 いたってのんびりとした近藤の言葉に、苦笑が禁じえない。が、それが不快ではないのは近藤の人柄であろうか。
「残念だが、そんな余裕はないだろうな」
「ん?そうか」
 冷たい感のある土方の言葉を近藤は気にした風も無い。これでも長い付き合いであるから、土方の言葉に悪意が篭っていないことくらいはわかっているのだろう。
「まぁ、良いか。こうしてトシと2人ってのもな」
 屈託ない笑顔の近藤に、土方はふいと視線をそらす。
 こうやって何の気もなしに彼が紡ぐ言葉や、その笑顔に心揺らされてしまう土方の心の内など、近藤にはまるでわかりもしない。それが恨めしくもあり、安堵をも感じる。
 土方が近藤を想う気持ちを知って欲しいが、知られたくない。そんな相反した想いからくるのだろうことはよくわかっていた。
 気持ちを落ち着けるべく、煙草の火を入れようと懐に手を伸ばしかけた土方の腕を、力強い掌が掴んだ。驚いて見やると、近藤が緊張した面持ちで眼前を睨んでいた。すぐさまそちらに視線を移すと、人込みから悲鳴が聞こえる。男が一人、人垣から飛び出してくる。手にはハンドバックを抱えていた。
「引ったくりだ!追うぞ、トシ!」
 土方より先んじて走り出した近藤に、土方も続く。近藤は真っ直ぐに引ったくりを追っている。土方は引ったくりの逃走経路を予想し、回りこむように追った。
ようやく追い詰めたというあたりで、引ったくりの男も囲まれた事に気付いたらしい。周囲を見回し、さっとある建物に逃げ込んで行く。
「…逃がさねぇよ」
 口の端に笑みを浮かべ、その建物に入ろうとした土方だったが、その建物が何であるのかに気付き、ぴた、と入り口の前で固まった。
 追わねばならないことはわかっているが、足はいっこうに動かない。
「トシ!ぼっとしてるな!追うぞ!」
「うわ!ちょ、近藤さんっ!」
 土方に追いついた近藤が立ちつくす土方の腕を掴み、引きずるように建物の中へと入って行く。視界が途端に暗くなり、ひんやりとした空気と遠くから聞こえる細い悲鳴にぞくりと肌があわ立った。


――その建物は、お化け屋敷と呼ばれるものだった。


 入った当初は、暗闇の中を近藤に腕を引かれ、何が何やらという風で、何とか恐怖に耐えていた。けれど、無常にもその近藤の手が土方から離れた。
「トシはこっちを探してくれ。俺はこっちを探す!」
「近藤さん!?」
 離れゆく近藤の手を再び掴もうと手を伸ばすが、それは空を掴んだだけだった。周りはあっという間に沈黙し、土方を1人闇の中へと取り残す。
 とにかく、外へ出よう。その為には道を行くしかない。本物の幽霊という訳ではなく、偽者なのだ。恐れることはない。
 真選組副長ともあろう者が、お化け屋敷を恐れるなどと……
「キャアアァァア……!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 突然土方の横から甲高い叫び声がしたかと思うと、頭から血を流す女が現れた。思わず叫び声が上がりそうになる口を手で抑える。ふらりと揺れる青白い手が土方に伸び、偽者だとか何だとか、そんなことは頭から吹っ飛び踵を返して走る。
 何も聞こえない、何も見えない!と言い聞かせ、ただ前だけを睨みつけて走った。
 と、前方にうっすら明かりが見え、ほっと息を吐いた。と同時に、上から青白い腕が目の前にぶら下がり、土方は上がる声を抑えられなかった。
「うわあぁああっ!!こ、近藤さんっっ!!」
「トシ!?」
 へたり込みそうになる土方の腕を、今日幾度目かの力強い手が引いた。
 ぽふっと頬に何かがぶつかる衝撃があり、目を開けば心配そうな近藤の顔が随分間近にあった。そして、己が近藤の胸に抱き込まれていることに気付き、さっと頬に朱を上らせる。
「引ったくりを捕まえて外に出たら、トシだけ一向に出てこないから、引き返して来たんだが…」
 体に力の入らない土方を支えながら、近藤が不思議そうに首を傾げる。近藤は土方がよもや幽霊が怖いなどとは、想像もつかないらしい。それに安堵しつつ、土方は近藤の腕の中から抜け出た。
 こんな状況であっても、近藤の体温を感じられる瞬間が得られたことが、酷く嬉しかった。出来るなら、このままでいたかったなどと、埒もない考えに及んで軽く首を振る。
「…ちょっと、暗闇に足を取られちまった。不覚を取ったぜ」
 そう言って何事もなかったように立ち上がれば、近藤は納得したらしい。そうか、と笑顔を見せた。
 建物から外に出ると、暗闇に慣れた目には日の光は眩しく、瞳を細める。少し前を歩いていた近藤が、ふと足を止めて振り返った。
「…さっきのトシは、なんか可愛かったなぁ。お化けが怖くて、それで俺を呼んでくれたのかと思っちまったぞ」
 ずばりその通りのことを言われ、思わず瞳を見張る。土方は途端に朱の上った頬を隠すように、睨みつけた。近藤はそれを土方が怒ったのだと慌てて両手を振って謝る。普段はてんで鈍いくせに、変なところで真実を付くことがある。
 仏頂面の土方に一生懸命に謝り続ける近藤に、土方はふ、と笑みをこぼした。

この人には、敵わない。

土方はわかった、もう良いと、近藤の背を叩くとにっと笑んで見せた。