黒い。噴出すそれは黒い羽のようでも花びらのようでもある。 一枚一枚全てに、彼の、彼の世界の未来が詰まっている。 舞い続ける黒い紙に変えられた、失われようとしている未来で、彼の顔が見えない。 真っ黒に敷き詰められてゆくそれは、血溜まりのようでもある。 実際、そのようなものかもしれない。 失うものは血ではなく、背負った未来。俺と、俺の大切な世界の。 微笑んでいた。嬉しそうにも思える。何故だか、分からない。 黒い紙は、彼の表情を思わせぶりに見え隠れさせる。 頬に、ぽつりと雫が落ちた。温かい。 ぽたりぽたりと、雫が零れ、頬を伝う。 黒い紙が、彼の表情をふいに見せてはまた隠す。 「お前が、勝者だ。余賀公麿」 黒の間を縫って伸ばされた指が、頬に触れた。 離れてしまう前に、縋るようにその手を取った。 「俺が、俺があんたの未来を奪ったのに」 「俺の未来をくれと、言われたと思ったんだが、違ったか」 「そうだけど、でも、俺は……っ!」 視界が晴れた。金の瞳に射抜かれる。 「ならば、胸を張れ。三國壮一郎の勝者として。その覚悟をしたんだと思っていたが、買い被りだったか」 「違う。覚悟は、した」 「俺は、あんたの未来を奪った。でも、三國さんの未来は、俺の未来でもある。だから」 黒い絨毯に横たわる彼の肩口に顔を埋めた。 泣いてる顔は、格好悪い。 「俺は、俺の大切なものを、絶対に失わない」 笑い声がする。優しい声。 頭を撫でられた、ようだ。 あぁ、いつか、この人を、俺は。
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