30倍のスキとキス




三國SIDE
 
 無意識に唇に当てていた指を外した。
 今になって、ようやく平静を取り戻した自分が少し情けない気がして、苦笑が零れた。

 「……流石に、予想外の行動だったな」

 「予想外の行動など、あるのですか」
 
 オーロールと手を繋いだQが、眠たげな瞼の内の視線を伏せたままに問うた。

 「あるさ。万能のものなどない」
 「ないものに、なりたいのですか」

 また、苦笑が零れた。
 
 「そう、かもしれないな」

 Qに手を差し伸べる。彼女は当たり前のように手を重ねた。
 
 「予想外の行動とは、あのアントレの、不可解な行動のことですか」
 「不可解……か」
 「不可解なのです」
 
 
 「でも、アントレは、満たされた顔を、しているのです」
 「ははは、そうか。満たされた顔、か」


 「彼は、どうなんだろうな」
 「わかる筈がないのです。今はまだ、予測不能のことなのです」
 「確かに、そうだ」


 「……俺と同じならいいと、今だけは、そう願いたいな」


 Qの手が、少しだけ握り返してくれた。

 そう、今だけは。



公麿SIDE


 「ねぇ!キミマローっ!ちょっと、いきなりどうしちゃったの!?」

 全速力で走っていた足を、ようやく止めた。
 その場にしゃがみこんで顔を埋めた。
 真朱がぺちぺちと背中や頭を叩く。

 「三國さんと何かあったわけ?アタシまで置いて走り出しちゃって、訳わかんないし!」

 「訳、わかんないのは、俺だよ……」
 「はぁ?何があったか言いなよ」
 「……言えない。……ごめん」
 「あっそ。別にいいけど。言いたくないことだって、あるもんだしさ」

 真朱の溜息が聞こえた。

 「……何気にしてんのか知らないけど、別にあの人、怒ったり不機嫌だったりしてなかったし。むしろ」
 「真朱、見てたの!?」

 彼女の言葉を遮って、ばっと顔を上げた。
 その勢いに驚いたのか、真朱が慌てた様子で両手を振った。

 「み、見てたっていうか……。アンタがいきなり走って行っちゃったから、訳わかんなくて、あの人の方を見ただけ!」
 「どんなだった!?」
 「どんなって……。ちょっと見ただけだから、わかんないよ」
 「でも、怒っていないし、不機嫌でもなかったんだ?」
 「びっくりはしてたんじゃない?でも……ちょっと、嬉しそうっていうか……よく、わかんないけど」

 「……嘘だろ……」
 「あのねー、アンタに嘘ついたって、何の得にもなんないから!」

 「……だって、俺、三國さんに」



 (30倍好きなキスを、しちゃったんだ)



 「……キミマロだって、ちょっと、嬉しそうな顔してたじゃん……」

 真朱の溜息がまた聞こえた。また、顔を伏せてしまったからだ。


 ドキドキしている。顔が熱い。顔が上げられない。


 同じならいいのに。
 好きが、30倍。
 同じ好きなら、いいのに。







かなん絵から妄想キス話。
らぶらぶにしたかった…らしい。かなんには不評でしょんもりです…
真朱の話し方微妙って言われた。自分でもそう思ったので、若干修正。でもあんま変わってない^^;