「貴方さえ良ければ、ここで休んでいきますか」 「は?」 道具を片付けるベナウィを、オボロはぽかんと見た。 「数時間は安静にするようにと、言われたのではないですか」 「あ、あぁ。言われた」 「ドリィとグラァの看護付きが良ければ、自室にお戻りなさい」 「うっ!……休ませて貰っても、良いか」 双子の看護が嫌な訳では無いのだろうが、目を泳がせる所を見れば、やはり得てではないようだ。 「構いませんよ」 「すまん、色々借りるぞ」 ベナウィは窓際の卓に向かった。幾つか持ち込んだ内の木簡を開く。利き手ではなくとも、署名程度は可能だ。 背後で衣擦れの音がする。ベナウィの夜着を拝借するのも数度となれば、勝手知ったるなんとやらだ。 木簡の一つに署名をし、次の木簡を手に取る。 「ベナウィ、お前は休まないのか」 「休みますよ」 持ち込んだ木簡の処理を済ませたら、だったが、嘘は言っていない。 「どうせ、そこの木簡を片付けたら、なんだろう」 オボロに腕を掴まれた。ちらりと背後に視線を向けると、オボロは不機嫌そうに見えた。 「なぁ、一緒に休まないか」 「……は……?」 「横になって仮眠するくらい、良いだろう。俺が眠るまででも良い」 「……私に添い寝しろ、と言いたいのですか?」 「……まぁ、そうだ。添い寝だ」 頬を紅く染めはしたが、どうも甘い雰囲気とは遠い。あの双子のことを鑑みても、この手のことに羞恥はあまり感じないらしい。その認識は間違っていると、正すべきか迷うところだ。 オボロが問答無用で腕を引く。溜息を吐いて立ち上がった。 上掛けをかけて横になったオボロは、機嫌を直したようだった。子供のような態度は彼には珍しい。 その隣に横になって彼の顔を見ていると、まだ幼かった彼の姿を思い出す。添い寝などさせて貰える立場では無かったのだけれど、それが、こんな風に叶う日がくるとは思わなかった。 くすりと笑えば、オボロが不審そうにこちらを見やった。 「……何だ」 「いえ。……子守唄(ユカウラ)でも、歌いましょうか?」 「いらんっ!」 一度だけ、彼の眠りを護ったことがある。大きく枝を広げた木の下、木漏れ日と青い空と温かな陽の光。それらよりずっと輝いて見えた、ベナウィの愛しい皇。 「さぁ、もうお休みなさい」 瞼を閉じて、彼は笑う。至福の刻が、再び巡る。
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