発光石の淡い光に照らされた彼の肌は、陶器のように白い。生を感じさせないその色は、先程まで朱に染まっていた色を、幻かと思わせる。 「……ねぇ、ヒエン。俺の事が憎いかい?吐き気がする程、疎ましいだろう?」 「……どうして、そんな風に思うんだ」 「母は、僕を愛し慈しんでくれた。幸せだったなぁ。僕も母が大好きだったからね」 「……知っている」 ハウエンクアは、何処か遠くをみている。幸福だった、過去の幻。常の狂気とは姿の違う、狂気。 「母は、愛する息子を庇った。そうして、僕が母を殺したのさ」 「ハウエンクア……!お前の所為では」 「大切な人を殺すような苦しみは、もう嫌だ!望まぬままに、殺させられるような、そんな痛みは、怖いよ……!」 嫌だ、痛い、怖い、そればかりを繰り返す彼に、ヒエンの言葉など届かない。それが、いつでも酷く、辛くて苦しい。 しかし、届かない理由など、己が一番知っている。過去に彼を見殺しにしようとした、己が。 ふ、と彼の慟哭が止んだ。ひたりと、彼の澄んだ紅い瞳がヒエンを見た。 「ねぇ、ヒエン。お前は、僕が憎いかい?殺したい程、疎ましいだろう?」 「…………」 答えられなかった。きっと彼は、肯定を望んでいる。けれどヒエンは、彼の言葉を肯定したくなど、無いのだ。 ただ、沈黙は、彼の中で肯定と受け取られるのだろうけれど。 ハウエンクアが、ふわりと柔らかい笑みを零した。子供の頃に見たことのある、過去の幸福な幻が、ヒエンにも見える。 「……僕の中が、恐怖と苦痛で一杯になったら、ヒエン、お前が僕を殺してくれよ。僕を憎むお前なら、苦しまなくて、済むだろう……?」 「…………あぁ、分かった。約束、しよう……」 「……………………これで、僕は」 そうして彼は瞼を閉じると、壊れた人形のように意識をなくして、敷布に倒れこんだ。 『もう、怖くない』 手を伸ばし、その白い頬を両手で覆う。額を寄せれば、かすかに温もりが伝わった。 その身は傍に在ろうとも、心は常に、地獄(ディネボクシリ)と常世(コトゥアハムル)の間のように、遠い。 それが今だけは、近くにあるような気がしていた。 あぁ、そうだ。地獄も常世も表裏のもの。とても遠くて、とても近い。 彼をこの手で殺すこと。それは、ヒエンが為し得る、唯一の贖罪だった。 ヒエンにも、みえている。 この世(ツァタリィル)でみる常世(コトゥアハムル)の幻、その名は。
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