*ほんのり腐ネタです。異母兄弟の弟→兄ホモ。 *今の所唯一の腐設定な二人(笑 作中一族 風雅(カゼマサ・フウガ)信条:見目より心 105代目当主 早嗣(ハヤツグ)好物:高野豆腐 氷牙(ヒョウガ)得意:髪結い 紫水の異母兄 紫水(シスイ)こだわり:雪駄 作中主人公 風真(フウマ)得意:散髪 先代当主・頼貴の息子 頼貴(ヨリタカ)得意:小細工 104代先代当主 紫焔(シエン) 氷牙と紫水の父親(氏神)で紫水は父と同じ顔グラ(2巡目) 髪結いが得意な兄、氷牙の朝の日課は、家族の髪を結うことだ。 結い紐の片端を咥え、櫛で整えながら、長い髪を器用に上へと結い上げる。時間としては、数分だろうか。鏡の中に風雅の満足げな笑顔が映った。 「ありがとう。今日も見事だな」 「そりゃどうもどうも。ほら、後ろが詰んでる」 「あぁ!すまん」 彼が正座のまま場を譲れば、後ろに控えていた早嗣が申し訳なさそうに会釈した。 まぁ、そうだろう。彼は当主なのだ。あんなぞんざいな扱いをする氷牙がおかしいのであり、生真面目に応じる風雅がおかしいのだ。 朝の髪結いがすっかり家族の習慣になっていて、当主だの兄だのといったことは抜きに、和やかな家族団らんの時間となっている。紫水が生まれる前からそうらしいから、今更おかしいと思う家族はいないのかもしれないが。 「俺の髪結いまでやらなくてもいいんだよ?風雅みたいに難しくはないんだから…」 「そりゃ聞き飽きたって。好きでやってるんだ。やらせてくれよ」 「その問答は、俺も聞き飽いたな。いい加減観念しろ、早嗣」 「……髪、切ろうかな…。風真ならうまくやってくれるだろうし…」 「え〜〜!?」 急に話題を向けられた風真がびっくりするより先に、氷牙が不満げな表情で早嗣の髪紐をぎっちりと締め上げる。早嗣があいたたた…と声を上げ、わかった、わかったと笑って早々に降参した。早嗣の髪結いは、長い後ろ髪をまとめるだけだからすぐに終わる。仕上がりを確認して、早嗣も感嘆の声をあげた。 「…ありがとう。…やっぱり綺麗だね、氷牙にやってもらうと」 「だろ?髪切るとか言わないでくれよ。……人数、減っちまったんだし……」 言葉の最後は小さな声だったが、皆にも聞こえている。 先代当主のことだ。彼の髪も氷牙が結っていた。ほんの、半年ほどのことだったらしい。風真が新たな家族となったが、彼は髪を短く刈っている。 最後に氷牙は、自分で自分の髪を結う。 「紫水〜」 「はい」 呼ばれて、髪紐を手渡した。紫水が一番末だった頃、先代当主の頼貴から役割として与えられたのが、氷牙の補佐とも言えないこの作業だった。今は風真がそれをするべき末の子だが、風真は散髪が得意だった。たまに鋏を持って、髪を整える役目を与えられている。 今のところ、朝に手持無沙汰なのは紫水だけなのだ。 渡した結い紐が氷牙の口に咥えられる。女性的なその仕草が、意外と似合って見えるのが不思議だ。 そう見えるのは、紫水だけなのかもしれなかったが。 「ん、ひゃいひゃと」 「……何て言ったんだ?」 「ありがとう、じゃないかな」 「ひゃにひひゃいひゃ……」 「……何だって?」 「どうして俺に聞くんです……」 結い紐を咥えたままで氷牙が何か言おうとしているのを、風雅が真面目に取り合っている。それに付き合う早嗣も大概人が良い。 「だ〜〜〜!兄貴たちはもう用が終わったんだから、やることやりに行けよな!?」 「もしかして、あにきたち、と言っていたのか?なるほど」 「風雅、どうする?」 「氷牙の支度が終わるのを待つサ。兄を優先して自分の支度が遅れているのに、それを置いて行くのは兄として恥ずかしい」 「時間を無駄にしてる当主さまの方が恥ずかしいだろ!イツ花ちゃんの手伝いでもしろって!」 「……そのとおりだね……。ほら、風雅、行くよ。風真も行こうか」 「はい。氷牙、紫水、お先に」 「おぉ〜〜!」 「あぁ。朝餉には間に合うように行くから」 綺麗にまとめ上げた髪を器用に結い紐でまとめる。何度見ても飽きない美しい所作だと思う。視線に気づいてか、氷牙が結い紐の端を口から離し、こちらを向いた。 「紫水も先に行ってていいんだぜ?」 「俺は氷牙の補佐なんだから、最後までいるよ」 「あ〜〜。…その問答も、聞き飽きたよな。悪い。…頼貴の、遺言みたいになっちまったもんな…」 『氷牙を補佐してやってくれ。それが紫水の役目だ』 そう言って、まだ幼かった紫水の頭を撫でて笑った先代当主は、初代当主の第一子、友貴さまにそっくりなのだと聞いたことがある。 どこまでを見通していたのだろう。あの当時には、自覚もしていなかった想いなのに。 全てを、見通されていたような気がする。友貴さまが、聡い方だったように。 「…髪、伸ばしたいな」 「なんで?」 「……人数、減ったって言ったのは、氷牙じゃないか」 「あぁ、うん、そうだけどさ」 「髪を伸ばせば、紫焔に見間違えたりしないだろ」 「間違わねェよ。おふくろたちも、もういないんだし」 髪は、結い終わったらしい。ずいっと顔が寄った。 「……気にしてんのか?」 気にしてはいなかった。来たばかりの頃は気になったこともあったが、すぐに気にならなくなった。皆が、特に母と叔母が、気にしなかったからだ。 『全然似てない』と、母と叔母に笑顔で唱和されてしまえば、むしろ似ていた方が良かったような気になったものだ。 そして、兄の氷牙も。 「似てねェって。親父のことはあんま覚えてねェけど、紫水は紫水だ」 「わかってる、気にしてない」 「……?じゃあ……」 とっと、と軽やかな足音が近づいてきた。障子の隙間から顔を出したのは風真だ。 「朝餉、もう食べられるぞ。……遅れるなら、伝えてくるが……」 喧嘩でもしていると思われただろうか。大の大人が顔を突き合わせて言い合いをしているのだ。そう思われた方が都合はいいが、風真は頼貴の息子だ。その父に似て、どこか聡い。 「……いや、一緒に行くよ」 「………俺が先に行ってる。二人の朝餉の支度、済ませておくから」 気を遣われてしまったらしい。風真はさっさと身をひるがえした。来たとき同様軽やかな足音は、今度は遠ざかってすぐ聞こえなくなった。 「……紫水が本気で髪を伸ばしたいなら何も言わねェけど……」 困ったような笑顔。 「俺は、短い方が好きだからさ」 ずるい。 「わかってる」 毎朝髪を結ってもらえる家族たちを、羨ましいと思ってきた。髪を伸ばして、氷牙に髪を結ってもらえたら、と思ったのは今に限らない。けれど、氷牙は紫水の短い髪を、似合ってると言い、好きだと言う。 『氷牙に髪結いして欲しいから、伸ばしたいんだ』 言えば、喜んでくれるのかもしれない。真意になんて、気付かずに。 でも、たぶん、そうしてしまったら。 壊れるのは紫水のほうかもしれない。だから、いつもそこまで言えたことがない。 「なぁ、髪結い、してやろうか」 「……え……?」 「今度な、今度。結うってほどには無理だけどさ。……こう、髪を上げて留めりゃあ…な?」 耳の横から両手を差し込まれた。髪を後ろに流すように指が髪を梳いた。 知っていたのだろうか。それとも、知らないで言っているのか。 いや、どちらでもいい。今は、どちらでも。 にかっと笑う兄の額にこつりと額をくっつけた。 「楽しみにしてるよ!」
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