*R2周目・第一子朔と家族の小話 *母である悠が永眠した後の話。 作中一族 朔さく 第一子・日課:瞑想 悠ゆう 初代当主で朔たちの母 絢あや 第二子 雪ゆき 第三子 鉄てつ 第四子 桜さくら 朔の娘。悠の孫。 若葉の柔らかな緑を、春の日差しが優しく包み込んでいた。 穏やかに吹く風が心地良くて、うたた寝しろと言わんばかりだ。 屋敷に来てからずっと、この縁側は朔の場所だった。 温かい日差しが差す時刻にはよくここにいたし、庭先で幼い兄弟が弓や槍、剣を振るう姿を見てきた。 『も〜!見てるだけじゃなくて、何か教えてくれなきゃ!』 『……俺、薙刀だし…他の武器はわからないから…』 『そうじゃなくて!他にも何かあるよ〜〜!』 すぐ下の絢は、訓練中よくそうして地団太を踏んでは、一生懸命指南書を広げ、巻物を読み込んでいた。 朔は、それをぼんやり見ていたり、たまにうたた寝したり。 ぽかり!とたたき起こされれば、ほっぺを膨らませた絢が睨んでいたりする。 それでも絢は、本当に朔を怒ったことなどないし、朔がいなくても、しっかり歩ける妹だった。 『さくちゃ〜ん!できたよ!ほらぁ〜〜!^^*』 『うん、すごいね、雪ちゃん』 『えへへ〜〜^^*』 小さな体に長い槍を抱えて、訓練だというのに、雪はいつも楽しそうに笑っていた。 握った掌には豆ができていて、痛そうなのに。 薬を塗ってあげるくらいしか、朔にしてあげられることはない。 それでも雪は、嬉しそうに掌を差し出す。 『兄ぃ!ひっさつわざをおしえてくれ!』 鉄には、元気いっぱいに飛びかかられて腕を引かれた。 縁側から引きずり降ろされても、朔にできることはなくて。 『朔ちゃんの必殺技なら、おかあちゃんが知ってるよ〜^^』 そして陽だまりの中心に、悠がいる。いつでも彼女から、温かい陽だまりが広がる。 『…必殺技なんて、ないよ〜』 『たっくさん、持ってるよ〜!^^* その中でもいっちばん最高の必殺技はな…』 『なになに!ゆーちゃん、はやくはやく…!』 鉄の、期待に満ちたきらきらした瞳を見つめて、悠は笑う。 『笑顔や!』 朔は、自分があまり笑っていた記憶がない。 楽しくないわけでは決してなくて、とても、幸せだった。 ただ、それを顔に出すのは、苦手だったということだろう。 『朔ちゃんの笑顔はほんま最高にエエんよ〜v おかあちゃん、大好きなんよ^^*』 『おれも、おれもえがお、する!だいすきになるか!?』 『雪も〜〜!』 『雪ちゃんはいっつも笑顔じゃないの』 『みんなの笑顔が、いっちばん、大好きや〜〜!><//』 子供たちみんなを、その細くて小さい腕と体いっぱいで抱き締めて。 悠が、家族みんなが笑っている姿を見ていることが、好きだった。 『あ!ほら、朔ちゃん、笑ろた!!きゃ〜〜v やっぱり素敵やわ〜〜v』 家族の輪から飛び出して、今度は朔に抱きつく。 朔はどうやら背が高いらしくて、女性にしては背が高いだろう悠でさえも、つむじが見える。 精一杯に顔を上向けた悠が、笑う。 『なぁ、もう一回、笑ろて?いっぱいいっぱい笑ろてな』 背に、懐かしい重みを感じた。温かい、柔らかい、陽だまりに触れたような。 弾かれたように振り返った。 ふわりと柔らかな風が頬を撫で、髪を悪戯になびかせた。 空っぽの部屋。誰も、いない。 心臓を鷲掴みにされる感覚。冷たく体が冷えていく。 笑顔の消えた瞬間を、思い出して……。 「……今のひと、だぁれ?」 眠たげな幼い声で、白昼夢から現実に引き戻された。膝にかかる重みを、ようやく思い出した。 お陽様色の柔らかい髪が、もぞりと動く。 朔を見上げて、にこっと笑った。 「さくらのあたま、なでなでしてくれたよぉ〜〜^^*」 少しはにかんだ笑顔で、触れられたのであろう頭に、大事そうに小さな紅葉のような手を当てて。 ――そうだったね、悠ちゃん。 「……そのひとはね、俺の大好きでとても大事な……」 陽だまりの真ん中で、娘に笑って聞かせた。 失ってから、初めての笑顔だった。
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