晴れて良い天気だからという理由で、昼食は屋上で摂ろうと誘われた。これといって断る理由も無く、ドリィとグラァを連れて行けば、思ったより大人数がそこには集まっていた。 「お、ちゃんと来たかい、若大将!」 「……ユズハも行くと言うなら……仕方ないだろう」 誘ったのはクロウだ。気も合うし、何かと世話にもなっていて、何だかんだとつるむ事も多い。彼の隣にはベナウィも居た。一緒に居る事の多い彼らだが、ベナウィがこういった場所に居るのは珍しい気もする。 「お兄様」 「ユズハ、身体は平気か?」 「はい。……風が心地良くて、気分が良いです」 「そうか」 誰が持ち込んだのか、ひかれたシートに座るユズハの隣に腰を下ろす。妹を囲むように、アルルゥとカミュも居た。 新学期が始まっても暫く休んでいたユズハを、友としてクラスに馴染ませてくれたのが彼女達だ。ユズハを連れ出してあれこれ遊び回らせるのには冷や冷やするが、兄の心配を他所に、ユズハは楽しそうであったし、体調も良いらしい。それには有り難いと感じている。 「……珍しいじゃねぇか。今日は弁当じゃねぇのかい?」 「早弁したからな。3限が体育だったんだ」 「多めに作ったつもりだったんですけど」 「足りなかったみたいなんです」 「別に、お前らの所為じゃないだろう」 購買で買ってきたサンドイッチを頬張る。購買に買いに行ったのが遅く、碌なパンが残っていなかったから、物足りないが、昼食分はこれだけだ。 「……お兄様、ユズハのお弁当……食べますか?」 「何を言っている。ユズハはしっかり食べて、身体を丈夫にしなくては」 「はい……だから、一つだけ、です」 差し出されてしまえば断れない。妹の弁当からたこさんウィンナーを一つだけ摘んで口に放り込む。 「……ありがとう」 「はい」 ユズハは嬉しそうで、オボロも釣られて微笑んだ。それが引き金だったのかどうか。今度は別の弁当が目の前に差し出された。 「オボロ、アルルゥのも食べる」 「は?」 「食べるっ!」 「あ、あぁ。……どれでも良いのか?」 「んー……。ミートボール」 「ん、ありがとうな」 「んーv美味しい?」 「旨いぞ」 アルルゥが満足げにお弁当箱を引っ込めたと思ったら、今度はカミュに差し出された。 「ね、ね!これ、お姉さまが作ってくれてるの。美味しいんだよー!特にこの卵焼き!オボロ兄さまにあげる。ね、食べて食べて!」 「え、あ……ありが、とう」 卵焼きはカミュが自慢するに相応しく旨かった。 「本当だ、旨いな」 「でっしょぉーー!」 きゃっきゃと嬉しそうに盛り上がる女子を尻目に、双子は機嫌が悪そうだった。ずいっと二つの弁当箱が突きつけられる。 「「若様っ!!僕達のお弁当、食べて下さいっ!!」」 「駄目だ。お前ら育ち盛りなんだぞ。昼飯はちゃんと喰え」 「「だって、若様っ!他の子のお弁当は食べるのに、僕達のは駄目だなんてっ!!」」 「お前ら、俺にばかり喰わそうとして、自分達はちっとも食べないだろう。だから駄目だ」 「「そんなぁ、若様ぁ〜〜!」」 「おぅ、若大将。そんなじゃ足りねぇだろ。これ喰え」 「貰って良いのか?」 クロウからやきそばパンを差し出され、そのまま受け取ろうと手を伸ばせば、引っ込められた。 「違げぇよ。購買一番人気のやきそばパンを、誰が全部やるなんつったよ。一口ご相伴させてやっても良いって言ったんだよ」 「懐の狭い奴だな。一口だけかよ」 「いらなけりゃ喰うな」 「……貰う」 「ほーれ、あーん」 差し出されたやきそばパンを目の前に、にやりと笑む。大口を開けて、半分位を喰い千切った。クロウの慌てた声がしたが、一口は一口だ。 「ほちほーはん」(ごちそうさん) 「……くっそぉ、やられた。しかしまぁ、何だ……意外と、癖になりそうだよな、こりゃ」 「?」 クロウの呟きの意味を正しく理解したのは、隣に居たベナウィだけだった。ちらりとクロウを見やったあと、オボロに向き直る。何故か気迫に押されるように背を正せば、弁当を食べるだけには勿体無い上品そうな箸が、目前に突きつけられた。箸に摘まれるのは、料亭料理のようにやはり上品そうなおかず。恐らく、唐揚げなのだろう。 「どうぞ」 「……どうぞ、って……」 「私からも一品、差し上げます」 「……いや、そう言われてもな」 「……不味くは無い筈、ですが……。それとも、他に食べたいものがありますか?」 彼のお弁当、というより、重箱の中身は見るからに美味しそうだが、そういう問題ではない。ただ、差し出した唐揚げを手にしたまま、縋るような瞳で見つめられては、断れない。 ぱくりと唐揚げを頬張る。羞恥に多少頬が紅かったかもしれないが、周囲は思うほど気にはしなかったようでほっとする。 「……ありがとう。ちゃんと、旨いぞ」 「そうですか、良かった」 少しだけ笑んだベナウィを見て、こういうのも悪くない、とらしくもなく思った。
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